料理人・調理師のための原価計算方法~売上原価,棚卸について~

料理人・調理師のための原価計算方法
~売上原価,棚卸について~

料理人や調理師の方の中で、実は「数字に強い」という方はあまり多くないかもしれません。
そのため、普段から耳にする【原価】や【棚卸】という言葉の本当の意味を、しっかりと理解している方はまだまだ少ないのが現状です。
ここでは飲食店の【原価】について、わかりやすく解説していきます。

飲食店でやらなければならない原価計算は2つある

飲食店でやらなければならない原価計算は、実は2つあります。
それは【理想の原価(率)】と【実際の原価(率)】です。
意外とこの2つを混同してしまい、何のために原価計算をしているのか目的が曖昧になっている方も多いです。この2つの違いと本質をしっかりと理解していきましょう。
また、原価と聞くと「料理メニューの原価」にばかり注目しがちですが、料理だけでなく飲料やお店で販売しているすべての商品の原価について把握することが重要です。

①理想の原価(率)とは?

飲食店で「原価計算をして」と言われたら、ほとんどの場合はこの【理想の原価(率)】(※専門用語では「理論原価」や「標準原価」と呼びます)を計算していることになります。
これは、メニュー1品ごとに計算するものです。
必要なデータさえ揃っていれば、ノートやエクセルを使ってどこでも計算できます。

【理想の原価(率)】を計算するのに必要な3つのデータ

①使う食材の内容量とその金額(例:1kgで500円 など)
②その食材の歩留(ぶどまり)率
③メニューのレシピ(食材の使用量を明記したもの)

歩留まりとは?

歩留率とは、仕入れた食材のうち、調理して実際に使える(提供できる)部分の割合のことです。
例えば、皮付きの玉ねぎが1kgで200円だとします。玉ねぎの皮は基本的に使わないため、皮を剥いて900gになったとしましょう。
つまり、実質的には「900gの玉ねぎを200円で買った」ということになります。
1kg(1,000g)のうち使える部分が900gなら、歩留率は90%(900g ÷ 1,000g × 100)となります。

■歩留まりの例
皮付き 1,000g 200円 → 皮むき後 900g 200円

ただし、日常業務の中ですべての食材に対して計量を行うのは非常に非効率です。
最初は、仕入金額が大きく原価に与える影響が高い食材を優先して計量し、歩留率を出していきましょう。比較的安い野菜などはおおよその目安で80%、90%と設定して構いません。また、調味料など捨てる部分のないものはすべて100%で計算します。

理想の原価(率)は何に使うのか?

理想の原価は、主にメニューの販売価格を決める時に使います。
また、後述する【実際の原価】と比較して「ロスが出ていないか」など、問題点の原因を追及するためのデータとしても使用します。
そのため、できるだけ正確に計算する必要があります。

理想の原価(率)の計算例

①メニュー(レシピ)を作る
②計算に必要なデータを集める。
③実際に計算する。

①メニューを作る。

メニュー名【鶏もも肉のソテー】
鶏もも肉 200g
玉ねぎ 10g
人参 10g

②計算に必要なデータを集める。

食材ごとの【内容量と金額】【歩留率】を調べます。

食材名 金額 歩留率
鶏もも肉 1kg900円 95%
玉ねぎ 1kg200円 90%
人参 1kg240円 95%

③実際に計算する。

最初に、それぞれの食材の「1gあたりの単価」を求めていきます。

鶏モモ肉 900円÷(1,000g×95%)=0.95円(1g)
玉ねぎ 200円÷(1,000g×90%)=0.22円(1g)
人参 240円÷(1,000g×95%)=0.25円(1g)

単価が出たら、あとはレシピの使用量を掛け合わせるだけです。

鶏モモ肉 0.95円×200g=190円
玉ねぎ 0.22円×10g=2.2円
人参 0.25円×10g=2.5円
合計194.7円

このメニューの【理想の原価】は194.7円となります。これを基準に販売価格を決めます。
仮に販売価格を700円とした場合、このメニューの【理想の原価率】は27.8%(194.7円 ÷ 700円 × 100)です。
※実際に計算する際、小数点以下の端数は切り上げて(原価を少し高めに見積もって)構いません。

しかし、これはあくまで「理想」です。実際に営業を始めると、お肉を規定より少し多く使ってしまったり、ロスが出たりすることがあります。
そのため、飲食店経営では「理想の原価」と「実際の原価」を比較・分析することが非常に重要なのです。

②実際の原価(率)とは

実際の原価(率)は、実際にお店を営業してみないとわかりません。
損益計算書などの会計書類で「売上原価」という項目に該当するのが、この【実際の原価】です。

実際の原価を計算するのに必要な3つのデータ

①前月末の在庫合計金額 【前月末棚卸高】 (※オープン初月はゼロ)
②その月の仕入合計金額 【当月仕入高】
③その月末の在庫合計金額 【当月末棚卸高】 (=棚卸)

実際の原価は何に使うのか?

【実際の原価】は、その名の通り「その期間に実際に使ったお金(材料費)」を把握するためのものです。これを把握しないと、正しい飲食店経営はできません。
【実際の原価 = 売上原価】と覚えていただいて構いません。

棚卸とは?

飲食店では月に1回、月末に【棚卸(たなおろし)】という作業をします。
棚卸とは、お店にある食材や飲料の数を数え、その数量に仕入単価を掛けて「月末時点の在庫の合計金額」を出す作業のことです。
この作業を行うことで、正確な【実際の原価(売上原価)】を求めることができます。

勘のいい方はお気づきかもしれませんが、この棚卸の作業が正確でないと、売上原価の数字も狂ってしまいます。
お店ごとのルールを決め、効率的かつ正確に棚卸作業ができるように工夫しましょう。

飲食店の売上の種類(参考)

飲食店の売上は、基本的に以下の3つに分類して管理します。

①料理売上(料理メニューのみの売上)
②飲料売上(飲み物メニューのみの売上)
③その他の売上(物販など、料理・飲料以外の売上)
※なければ不要

最近のPOSレジを導入すれば、こうした分類・集計は非常に簡単になります。個人店こそ経営状態を細かく分析できた方が良いため、可能であれば導入をおすすめします。
売上を分類することで、料理と飲料それぞれの実際の原価率も正確に把握できるようになります。これらをすべて合わせた原価の合計が、お店全体の【売上原価】です。

実際の原価(売上原価)の計算例

前月末の在庫金額 1,000円
今月の仕入合計金額 5,000円
今月末の在庫合計金額 2,000円

計算式は以下のようになります。

前月末の在庫金額(1,000円) + 今月の仕入金額(5,000円) - 今月末の在庫金額(2,000円) = 4,000円

この4,000円が、その月に使った実際の金額(売上原価)となります。
少し専門的な言い回しになりますが、以下の関係性を何となく覚えておきましょう。

前月末の在庫合計金額 =【前月末棚卸高】
今月の仕入合計金額=【当月仕入高】
今月末の在庫合計金額=【当月末棚卸高】

飲料の原価計算も、これと全く同じ手順で行います。

仮に、この月の料理売上が10,000円だった場合、料理の実際の原価率は40%(4,000円 ÷ 10,000円 × 100)となります。
もし飲料売上が5,000円、飲料の実際の原価が1,000円であった場合は、飲料の実際の原価率は20%(1,000円 ÷ 5,000円 × 100)です。

整理すると以下のようになります。

総売上 15,000円
【内訳】
料理売上 10,000円
飲料売上 5,000円
売上原価 5,000円(全体の原価率 33.3%)
【内訳】
料理原価 4,000円(料理原価率 40%)
飲料原価 1,000円(飲料原価率 20%)

このように売上の構成とそれに伴う原価率を把握できるようになると、お店の利益についてさらに深い分析ができるようになります。

会計上必要なデータは【実際の原価=売上原価】のみ

実は、税務署等に提出する会計上必要なデータは【実際の原価(売上原価)】のみです。そのため、会計上のルールだけで言えば【理想の原価】をわざわざ計算する必要はありません。

しかし、前述の通り「理想の原価」は計画書です。計画書なしでメニューの販売価格を決めたり、お店を運営していくことは困難です。
どんぶり勘定での経営はリスクが高いため、必ず【理想の原価(率)】はメニュー1品1品計算するようにしましょう。

まとめ

①飲食店では【理想の原価(率)】と【実際の原価(率)】の2つを求める
②【理想の原価(率)】は、販売価格を決めたり、実際の原価と見比べて分析するために計算する
③【実際の原価(率)=売上原価】は会計上必要なデータであり、実際にどれくらいのお金を使ったかを把握するためのものである
④棚卸とは在庫の合計金額を出す作業であり、実際の原価(売上原価)を計算するために絶対に欠かせない
⑤まずは2つの原価の役割を理解し、適切な数字管理ができるようにする

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