料理人・調理師のための原価計算応用

料理人・調理師のための原価計算応用
~理想原価(理論原価)と実際原価の比較・売上分析~

今回は、前回解説した原価計算の応用編として、「理想原価」と「実際原価」の比較方法について解説します。
これを実践することで、自店舗の原価に関する問題点や、数値的なズレの原因を探ることができます。
飲食店において、数値は細かく細分化して分析できればできるほど良いと筆者は考えています。
今回も前回と同様に、筆者が実践している原価計算手法について語ります。
まずはこちらをご覧ください↓↓↓

原価計算の基本

理想原価と実際原価の比較、分析方法

飲食店の原価管理では、2つの原価計算が必要になります。
それは【理想原価(理論原価)※】と【実際原価】です。
※業界用語では理論原価や標準原価とも呼ばれます。

理想原価計算に必要なデータは3つ

①使用する食材の内容量と仕入れ価格(例:1kgで500円など)
②その食材の歩留率(可食部の割合)
③メニューのレシピ(各食材の使用量を明記したもの)

まずは、お店のメニュー1品ごとの理想原価を求めてください。
料理メニューだけでなく、ドリンクや物販など、お店で販売しているすべての商品が対象です。

実際原価の計算に必要なデータも3つ

①前月末時点での在庫の合計金額(オープン初月はゼロでOK)【前月棚卸高】
②当月の仕入れの合計金額【当月仕入高】
③当月末時点での在庫の合計金額【当月棚卸高】

実際原価の計算式
①+②-③=実際の原価(売上原価)

比較、分析方法

理想原価については、以下のようなメニューデータを作成すると比較に便利です。
当サイトの【飲食店原価計算エクセル表&レシピ管理表】を使えば、以下のデータがすぐに作成できます。

Excel原価&レシピ表

比較する当月の理想原価データ

メニュー名 理想原価 売価(税抜き) 原価率 販売数(月間) 売上合計 原価合計
チキンソテー 300 1000 30% 120 120,000
(1000×120)
36,000
(300×120)
トマトパスタ 300 900 33.3% 150 135,000 45,000
サラダ 200 800 25% 100 80,000 20,000
コーヒー 50 500 10% 200 100,000 10,000
全体合計 25.5% 570 435,000 111,000

比較をするにあたって、月間の販売数(赤文字の部分)を調べる必要があります。
POSレジなどを導入していると集計がスムーズです。

このデータから読み取れること

この表から、今月の料理の理想原価率は30.1%、ドリンク(飲料)の理想原価率は10%、全体の理想原価率は25.5%であることが読み取れます。
では次に、比較対象となる実際原価のデータを見てみましょう。

比較する当月の実際原価(売上原価)データ

売上 435,000
【料理】
前月棚卸高
(前月の在庫合計金額)
40,000
【料理】
当月仕入
(今月の仕入合計金額)
137,200
【料理】
当月棚卸高
(今月の在庫合計金額)
50,000
料理メニューの実際原価(率) 127,200
(40,000+137,200-50,000)
38%
【飲料】
前月棚卸高
(前月の在庫合計金額)
1,000
【飲料】
当月仕入
(今月の仕入合計金額)
13,000
【飲料】
当月棚卸高
(今月の在庫合計金額)
2,000
飲料メニューの実際原価(率) 12,000
(1,000+13,000-2,000)
12%
売上原価
(実際原価(率)
139,200
(127,200+12,000)
32%

このデータから読み取れること

実際の料理原価率は38%、ドリンク(飲料)原価率は12%、売上原価全体(実際の原価率)は32%であることがわかります。
原価の比較・分析には、これら双方のデータが必要不可欠です。

では、この2つのデータを比較・分析してみましょう。

理想原価と実際原価の比較、分析

わかりやすいように以下の表にまとめます。

理想原価(率) 実際原価(率) 差額
売上 435,000円 435,000円
料理原価(率) 101,000円(30.1%) 127,200円(38%) +26,200円
飲料原価(率) 10,000円(10%) 12,000円(12%) +2,000円
売上原価(率) 111,000円(25.5%) 139,200円(32%) +28,200円(6.5%)

計画通りであれば、この月の実際の原価率も理想原価率である25.5%付近に収まっているはずですが、実際には32%になっています。
金額に直すと、理想(計画)よりも「28,200円」多く原価を使ってしまったということです。
この原因を追究するために、【理想原価(率)】のデータが必要になります。
そもそも【理想原価】を算出していなければ、この差額(ロス)が発生していること自体に気づくことができません。
このように【理想原価】と【実際原価】の差異を比べることで、自店舗の原価の問題点をあぶり出すことができるのです。

分析:差異の原因を探る

この「28,200円のズレ」の正体はいったい何なのかを調べる必要があります。
主な原因として、以下の5つの可能性が考えられます。

① 規定のレシピよりも、実際に提供した分量が多かった(オーバーポーション)
② 食材の廃棄(ロス)が多く出た
③ 一部の食材が高騰していたが、理想原価の計算に反映されていなかった
④ そもそも理想原価の計算(レシピ表)が間違っている
⑤ 上記以外のイレギュラーな理由

今回の場合、28,200円の差額のうち「26,200円」が料理原価の差額であるため、特に料理に使っている食材を中心に原因を探ります。
通常、飲食店では必ず調理ロスが発生するため、「実際原価 > 理想原価」となります。その差額が大きければ分析の対象になりますが、ごくわずかな誤差範囲(0.3%程度など)であれば、過度に追求しなくても問題ありません。
逆に「実際原価 < 理想原価」となった場合は、お客様に規定量より少なく提供している(アンダーポーション)などのクレームに繋がる理由を疑う必要があります。

① 規定の分量より多く提供していた

いつも通りに調理する中で、無意識に規定量よりも多く食材を盛り付けていないか確認します。
特に高額食材の使用量や、出数の多い人気メニューの分量にブレがないかを重点的に調べましょう。

②食材ロスが多く出た

食材ロスは、日頃から記録していなければ正確にはわかりません。
「なんとなく多く捨てた気がする」という心当たりがあっても、確信は持てないでしょう。
可能であれば、日々の廃棄(ロス)を金額換算して記録することをおすすめします。
ロス額を計上していれば、例えばロスが20,000円だった場合、「28,200円 - 20,000円 = 8,200円」となり、差額の大部分が【食材ロス】によるものだと判断できます。

食材の高騰が反映されていなかった

この場合は、最新の仕入れ価格で理想原価を再計算します。
再計算した理想原価が実際原価(139,200円)に近づけば、差額の原因は【食材高騰】だと判断できます。

理想原価の計算ミス

③と同様に、レシピの計算式や歩留率に間違いがないか見直しましょう。

その他のイレギュラーな理由

原因が見当たらない場合は、イレギュラーな出来事がなかったか振り返ります。
例えば、「賄い(従業員食事)を過剰に作った」「従業員によるつまみ食いや持ち帰り」「お客様への過剰なサービス(無料提供)」「業者側の納品ミス・伝票ミス」など、通常業務以外での可能性を洗い出してみましょう。

なぜ比較・分析が必要なのか?
〜現状把握と、今後の対策を考えるための指標〜

個人の飲食店では、どんぶり勘定(大まかな感覚)で経営してしまうことも少なくないと思います。
しかし、感覚だけで管理していると、イレギュラーな事態や危機が起きた際の対応が遅れ、最悪の場合は廃業に追い込まれる危険性があります。
常に数字を管理・把握しておくことで、トラブルへの耐性が強くなります。
また、原因がデータとして明確になれば、今後の対策や目標も立てやすくなります。

例えば、従業員に対して「原価が高騰しているから気を付けて」と曖昧に注意するよりも、「この食材の原価が〇〇円高騰しているから、1人前〇〇gの計量を徹底して」と伝えた方が、より具体的で行動に直結します。
データによる比較・分析は、経営者自身の現状理解を深めるだけでなく、スタッフへわかりやすく指示を伝えるための強力なツールにもなるのです。

まとめ

① 理想原価、実際原価の計算方法を理解する
② それぞれのデータを作成する(エクセルなどを使うと管理しやすい)
③ 比較・分析によって、原価のズレや問題点をあぶり出す
④ 原因を理解し、対策を立てて今後の経営に活かす

原価管理は奥が深く、お店の業態によっても状況は異なります。
まずは「原価計算にまつわる言葉の意味」と「数字を比べることの重要性」を理解できれば、第一歩としては十分です。

基礎からおさらいしたい方は、まずはこちらの記事からご覧ください↓↓↓

原価計算の基本

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